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「またびしょびしょになったねぇ、陽くん」
「ほんとだよ」
祖母の家に置いていたいらなくなった中学時代のジャージに袖を通しながら、陽は大きなため息を吐いた。びしょびしょに濡れた陽を見て、祖母は心配もせずゲラゲラと大笑いした。「高校の制服姿を見せに来てくれたと思ったら濡れ鼠なんだもの」なんて酷い言いようだ。昔から変わった人だとは思っていたが濡れた孫を見てその反応はなしだろう、なんて思いながら二つ目のため息を零した。
だからこそこの家に来るのは嫌だった。近所の子供にとっては『駄菓子屋の愉快なおばあちゃん』であっても、身内からしては『少し変わった親戚』でしかない。とはいっても、身内には変わりない、縁は切っても切れない。この家の畳の匂いを、どことなく古めかしいお菓子を、この少し変わった祖母を、恥ずかしいと思ったのはいつからだっただろうか。
「陽くん、お腹空いてないかい? お店のお菓子何個かお食べ」
こうしていれば普通の優しいおばあちゃんだというのに。三度目のため息をぽつり。
「ばあちゃん、手伝うことある? 菓子の分手伝うよ」
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