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「それはありがたいねぇ。じゃあ、椅子を運ぶのを手伝ってくれるかい? 今日はあめちゃんが来るからね」
(またでたよ)
昔からよく話す謎の人物『あめちゃん』。祖母は幼い陽によく話してくれた。
「あめちゃんはね、雨の日にしか会えない子なのよ」と。
結局この年になるまで件のあめちゃんには会ったことがないし、もう信じてもいない。祖母は妄想が激しいのだと親戚中で噂されている。あめちゃん、それは優しい祖母を普通ではなくしてしまう存在だと陽は認識していた。
「……どこに何脚だすの」
絞り出した一言。
「そこの長椅子を軒下に出してくれる?」
にっこりと楽しそうに笑う祖母は本当に嬉しそうで、より一層胸の奥がぎゅっと引き攣った。楽しそうにお菓子を選び、いつの間にか用意されたお盆の上に置いていく姿は今から友達と会う少女のようだ。
「今日は寒いからね、暖かい玄米茶にしましょ」
祖母の大きな独り言を聞きながら、店の片隅に置かれた青い長椅子を持ち上げる。確かにこれを運ぶのは大変だ。半ば引きづるように長椅子を軒先に移動させ、本日何度目かもわからないため息。
「重いなぁ」
がたん。今置いたばかりの長椅子の方から大きな音がした。店の中へと入りかけた足を思わず止める。おそるおそるあげっぱなしの足を下ろし、背後へと目を向けた。
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