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だが、そんな難しいことを少女達が知るはずもなく、本って何だろうとしきりに言い合っていた。
「本っていうのはね、紙っていうぺらぺらの海藻みたいなものに、文字っていう記号を使って物語を記録したものなんだって」
「えぇ! なにそれ、おもしろそう!」
大声で叫ぶ赤色を横目に、青色は目を背け、紫色が感嘆のため息をもらした。反応は三者三様だが、三人とも各々目を輝かせているのは隠せない。目を背けた青色だって、ちらちらと緑色を窺っているのだから可愛いものだ。
「さあ、入ってみましょうか」
その言葉を待っていましたとばかりに泳ぎだす赤色の尾びれを青色がパシッと掴んだ。
「待ちなさいよ、一人で行くと危ないでしょうが」
むすっと頬を膨らませながらも泳ぎを止める赤色。紫色が「いい子ね」と頭を撫でれば、照れながら笑った。
「そうね、何もないとは思うけど、念のため固まって行きましょうか。説明もしやすいから、その方があたしも助かるわ」
四人で壊れた扉をくぐれば、広く、そして高い空間がつづいていた。天井までつづく少女達の何倍もあろう棚には、本は一冊も入っていない。ただただからっぽの棚だけが空間いっぱいに占めている。
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