深海 星屑 夢の跡

4/38
前へ
/38ページ
次へ
 本のない、もはや図書館と呼べるのかわからない空間と化してしまっていたが、三人の目はそのからっぽにくぎづけだった。  外から見ても壮大だった建物の中は、より一層素晴らしく見えた。棚の端々には細やかなレリーフ、柱は滑らかな円を描く。ところどころに置かれた椅子の数々は街のような白色で、割れてしまった天窓からはきらりきらりと雪が降ってくる。棚に立てかけられた梯子の数々の意味は分からずとも、この図書館という一つの空間を彩るスパイスのように三人は感じた。  目を丸くする三人を見ながらくすりと笑う緑色は、一つの物語を思い出していた。皆が婆様と呼ぶ、一番年寄りの人魚が教えてくれた物語、遠い遠い昔の話。 「じゃあ、この図書館で本当にあった過去のお話をしましょうか。あたしが婆様に教えてもらった、甘い、甘い物語よ」
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加