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その図書館の名はルミエール、この街の名を冠した唯一の図書館。本を読みたければどんな住民もここへやってきた。どんな住民でも図書館は受け入れた。
それはある日のことだった。
青年は本を返しに図書館へ向かった。返却期限は本日の閉館時間まで。返却期限を過ぎてしまうと、五日ほど本が借りられなくなってしまう。
(それだけは避けないと……)
青年は本が好きだった、青年は本を借りるのが好きだった青年は受付で佇む彼女が好きだった。
弱虫で恥ずかしがりやな青年にとって、彼女と喋ることができるのは本を借りるときと返すときだけ。その機会を自分から五日もないものにするなんてとんでもなかった。
(間に合え……!)
扉を勢いよく開け放てば、もう誰もいない館内が目に入った。だめだった、肩を落とした瞬間だ。
「はい、確かに返却してもらいました」
ぽんっと肩に置かれた手をたどれば、いつもよりも近くにある彼女の顔。思わず赤くなる顔は走ったせいだと自分に嘘をつきながら、平静を保とうと顔の筋肉に力をこめた。
彼女は青年が借りた本、青年の名前、返却日時も覚えて、待っていた。それが仕事だから。
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