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1章 彼女の世界
今からそう遠くはない過去
僕は身も心も溶けるような恋をした。
決して恋をしてはならない相手への禁断の恋。
恋が叶ったのはほんの短い間だけ。
やがて世界がそのことに気づくと全てが変わってしまった。
それまでずっと僕が生きてきた世界が溶け
彼女の世界を漂うと
彼女の世界の中に固まった。
氷は溶けると水になる。
水は蒸発すると空気中を漂う。
また水になり別の形に固められる。
世界も同じで溶けて蒸発してまた別の形に固まることもあり得ることをはじめて知った。
あるいはそうなったのは僕の方かも知れない。
僕の記憶も同じように
いや僕自体が同じように
…
「お兄ちゃん、起きて!」
目を開けるとそこには僕の妹がいた。
円らな大きな黒い瞳は水を得て少しの光でもキラキラと揺らぐ。
茶色く柔らかそうな頭を撫でると見た目と反して水を含んだようにスベスベしていて、いつまでも撫でていたくなるような…
「お兄!! 何寝ぼけてるの? ほら、早く起きて。」
あの夢を見た後はいつも妹がたまらなく愛おしくなる。
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