4人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな排水溝ライフに異常が生じたのは、この生活を始めて二ヶ月ほどした頃だった。
いつも通り仰向けになっていた僕だったが、ふとあることに気づいて、悲鳴をあげかけた。
僕の頭のすぐ横に、こう落書きがしてあったのだ。
「私は○□△。私は次のうち誰?」
暗闇でも読めるよう白いチョークで書かれている。
こんなところでまともな体勢では書けないからだろう、字はひどくいびつだ。
こんなものが書かれたということは、僕の排水溝ライフを知る者がいるということだ。ぞっとした。
なお落書きは、その後は何も書かれていなかった。次とは一体……?
翌日同じように排水溝に入ると、続きが書かれていた。
「小田サイマル。丸道田。七角トシマサ。私は誰だ?」
全員知り合いだ。小田は写真部員の同級生、丸道は書道部の後輩、物理の七角先生は僕の担任だ。
これを書いたのはこの中の誰かということなのか……。
小田は写真部員。盗撮の趣味があって、ここを使っているのか? しかしこんなひとけのないところではその目的は果たせまい。
丸道の名前は「でん」と読む。九州は久留米カスリの創始者にあやかったらしい。
名前が三文字で、伏せ字と一致しているのは丸道だけだ。しかし、これだけでは弱い気がする。問題として簡単過ぎる。
七角先生ということはありうるだろうか。先生のことなんてろくに知らないので、犯人当てなんて無理に近い。喫煙者であることと、奥さんと子供が一人いるとか。先生についての知識はそれくらいだ。
この伏せ字はなんなんだ。三文字であることに意味はあるのか? それとも並び? 形?
記号を縦に並べてみたり、英語名に直してみたり、鏡文字にしてみた。だが三人の誰を指すこともできない。
どんなに考えても、この日、答えは出なかった。
あの三文字にどんな答が隠されているというんだ?
最初のコメントを投稿しよう!