排水溝奇譚

3/4
前へ
/4ページ
次へ
 そんな排水溝ライフに異常が生じたのは、この生活を始めて二ヶ月ほどした頃だった。  いつも通り仰向けになっていた僕だったが、ふとあることに気づいて、悲鳴をあげかけた。  僕の頭のすぐ横に、こう落書きがしてあったのだ。 「私は○□△。私は次のうち誰?」  暗闇でも読めるよう白いチョークで書かれている。  こんなところでまともな体勢では書けないからだろう、字はひどくいびつだ。  こんなものが書かれたということは、僕の排水溝ライフを知る者がいるということだ。ぞっとした。  なお落書きは、その後は何も書かれていなかった。次とは一体……?  翌日同じように排水溝に入ると、続きが書かれていた。 「小田(おだ)サイマル。丸道(まるみち)(でん)七角(ななかど)トシマサ。私は誰だ?」  全員知り合いだ。小田は写真部員の同級生、丸道は書道部の後輩、物理の七角先生は僕の担任だ。  これを書いたのはこの中の誰かということなのか……。  小田は写真部員。盗撮の趣味があって、ここを使っているのか? しかしこんなひとけのないところではその目的は果たせまい。  丸道の名前は「でん」と読む。九州は久留米カスリの創始者にあやかったらしい。  名前が三文字で、伏せ字と一致しているのは丸道だけだ。しかし、これだけでは弱い気がする。問題として簡単過ぎる。  七角先生ということはありうるだろうか。先生のことなんてろくに知らないので、犯人当てなんて無理に近い。喫煙者であることと、奥さんと子供が一人いるとか。先生についての知識はそれくらいだ。  この伏せ字はなんなんだ。三文字であることに意味はあるのか? それとも並び? 形?  記号を縦に並べてみたり、英語名に直してみたり、鏡文字にしてみた。だが三人の誰を指すこともできない。  どんなに考えても、この日、答えは出なかった。  あの三文字にどんな答が隠されているというんだ?
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加