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老舗洋菓子店の噂
「愛! ほら行くよ!」
「わ、わかったってってば! 行くわよ……」
私の地元の商店街には、ある噂で有名な老舗洋菓子店クピドというお店があります。
赤茶色の煉瓦の外装、色褪せたスタンド看板には洋菓子クピドと書いてありドアを開け店内に入ると、ショーケースにはとてもシンプルな正に昔ながらの素朴なケーキ達が並んでいて、とても今時の女子高生が行くようなスイーツ店ではありません。
そのショーケースの奥には70代ぐらいの白髪モフモフ、小太りのハーフかなって感じのおばあちゃんがいて、笑顔で出迎えてくれます。
そしてこのお店では、基本的に1年中ケーキをメインに扱っているのですが、
バレンタインの時期になると、名前のクピドにちなんでキューピッドが持っている弓矢型のチョコレートを販売します。
チョコレートには2種類あって、1種類はブラックチョコレート、もう1種類はホワイトチョコレートで、この2種類のうちどちらか1種類がランダムに入っているのです。
そしてこの洋菓子店クピドが地元で有名になった噂の理由というのが、
箱の中身を確認せず、意中の人にこの弓矢型のチョコレートを渡し、中身がもしもホワイトチョコレートだったら、もらった相手は渡してくれた人を好きになってしまうという噂でした。
バレンタインの時期のこの噂は女子中高生を中心に何十年も前から口コミで広まり、
本当はクピドのおばあちゃんはキューピッドの生まれ変わりなんじゃないか?
あの弓矢のチョコレートには本当に魔法の力が宿ってるんじゃないかとか?
そんな噂がずっとずっと前からあるそうです。
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