味噌汁は温いうちに

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味噌汁は温いうちに

 朝食はいつも、炊きたてのご飯と、インスタント味噌汁。  夫は、ご飯に生卵をかけて食べる。  美智留(みちる)は、ふりかけご飯。  結婚して1年になるが、美智留は未だに凝った料理がつくれない。 「あのね」  完食しそうな夫に、美智留は話しかける。 「資格、とりたいの」  夫は箸を置いた。 「資格?」  美智留よりひとつ年上の夫は、成人して何年か経つのに幼さの残る顔を、ゆがめて腕を組む。怒っているのか、ただ疑問に思っているのか、美智留には読めない。  でも、話し始めたからには、途中で止めるわけにはいかない。 「うん。介護の資格」  美智留は、デイサービスの介護職員だ。無資格で働かせてもらっている。 「学校に通いながら、働けるんだって。資格があればお給料も上がるし」  詳しく話そうと思ったけれど、介護の学校のパンフレットが手元にない。職場のロッカーに置いてきてしまった。  夫は腕を組んだまま、口を開いた。 「その話、上司は知ってるのか?」 「うん……上司から持ちかけられたから」 「俺は反対だからな。第一、学校に行かれたら、収入がなくなるだろ。ただでさえうちは貧乏なんだ」  確かに夫の給料も良いとは言えない。高卒で町工場に就職した夫は、勤続4年でようやく今の額をもらえるようになったのだ。 「だいたい、介護なんかで飯が食えるかよ」  介護なんか。そのフレーズは、美智留の思考回路が沸騰するのに充分だった。 「介護なんか、って何!」 「言葉のまんまだよ!」  夫も負けじと声を張る。  しばらく口論した後、夫は職場に向かった。  静かになった食卓で、美智留は夫の食器を下げる。  お椀には、溶け残りの味噌が乾きかけてこびりついていた。お湯がぬるくて溶け残ってしまったのかな。
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