疫 病

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           大晦日 私は家族とこたつに入り定番の紅白歌合戦を見ている 娘は慣れない手つきでみかんを剥いて食べている そして妻は私がコンビニで買って来たおでんを食べている だから何だと言いたいだろうが 私が口に出して言いたいのは妻のことである 妻によると「私はお正月は料理は作りません 私はそういう家庭で育ちました」と言うのだが 我が妻よ 君が言うお正月というのは明日であり今日はまだ大晦日なのです 早くだらけたい気持ちを押さえて今日という大晦日に全力を尽くして貰いたい 紅白歌合戦は終盤に差し掛かかった  いよいよ大御所サチコの登場である「サチコ サチコ!」と娘は興奮している そして妻はおでんが盛られたお皿からタマゴを取り 「やっぱりサチコは最高ね!」と言ってむしゃむしゃと食べ始めた 奥様…それは私が最後に食べようと取って置いたタマゴなのですぞ! しばらくすると  玄関で「ドン!ドン!」とドアを叩く音が聞こえる 再び 「ドン!ドン!」と――― 妻は「誰かしらこんな時間に?」 私は「季節外れの花火だろ」 妻は「冬なのに?どこで?」  私は「玄関で」  妻は「あなた私そろそろ怒るわよ いいから誰か見てらっしゃい」 私は仕方なく玄関へ来客が来たのか確認しに行くことにした こういう時は男性が行くと世界相場で決まっているからだ 私のことを気に掛けてくれているのか 妻は「あなた泥棒かも知れないわ 気をつけてね」 その妻の一言で恐怖を感じた私は 小刻みに震える手を隠して「泥棒はドアをノックしたりしないよ」と無理笑いを浮かべた
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