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その後も何事も無く時間は進み、もう自身のバイトが終わってしまう30分前ぐらい、やっと、いつもより2時間ほど遅く出てきたあの人は疲れ切った顔で、いつも標準装備しているはずの本すら持っていない。
どるん、どるんとでも聞こえそうな足取りで改札を抜け、いつもの様に右方向に消えていくのではなく、こちらに向かってくる。
改札左側は飲食店が3店並んでいるのでそのどこかに入るだろうと思われる。しばし作業の手を止め、あの人の動向を見守っていると、なんとあの人はこの店に入ってきた。真っ直ぐレジカウンターへと向かってくるあの人、さり気なく現在1つしか機動していないレジに身を滑り込ませ待ち構えた。
やや俯き気味で表情は窺えないあの人はそれでも全身で『疲れきっています』と表現しながら、どるん、どるんとこちらへ足を進めてくる。いつも表情が豊かなあの人は表情以外も感情豊からしい。
そんなあの人が頼んだのはアイスパンケーキとホットコーヒー
会計をすませ、『出来たてをお持ちします』と伝えると角席でやっと本を取り出したあの人。
精霊を守る人シリーズの2作目、あのシリーズはハマると全作読みたくなる呪いにかかると言われるほど没入感が凄まじいらしい。実際俺自身も1作目を昨日から読み始め、さり気なく一駅乗り過ごした。
全てを読みたくなる、一気に読みたくなる、そんな呪いをかける魔の書籍。
表紙からペラリペラリと捲っているという事は今が読み始め、電車の中で1度も本を開いていなかったのだろうか?珍しい。
コトリ、と注文の品を届ける。
読み続ける彼女。
別の作業をしながら彼女を見るも本から顔をあげる気配はない。ヤバい、かの呪いに掛かったようだ。彼女の視線はブレることなく紙の上に固定されている。
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