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頼んでいたのがアイスドリンクなどの、置いておいてもそこまで影響のないものなら良かったのだが、運の悪いことに頼んだのはホット、それにアイスパンケーキ。特にパンケーキの方。
あぁやばいやばい、アイスがもう半分くらい姿を消している。じゅわぁぁと白い液体に姿を変え、溶け落ちていくアイス。お願いだから気づいてください、もうパンケーキからアイスが落ちそうです。だいぶお皿に溶け広がってます。もはやアイスというか若干クリームの乗ったシロップみたいになってますよ。もう溶けすぎて滝とその下に広がる湖みたいに白の面積拡大中です。
それでも彼女は気づかない、いや気づけない。
何故なら手元の本に夢中だから。
コーヒーも湯気立っていない、アイスは微かな残骸を残しドロドロ、パンケーキはジトジト。美味しい瞬間は通り過ぎ遥か彼方。
もしや、このまま俺がバイトあがったら、誰も彼女のあの状態に物申そうだなんて思わないんじゃないだろうか。
迫るバイト終了時間、声を掛けるとしたら今しかない。彼女の為に、いや彼女と知り合うきっかけを得るために、アイスがギリギリ残っている今のうちに彼女の呪いを解くべきだ。
普段は誰のアイスが溶けようが、コーヒーが冷めようがどうでもいい、でも、彼女は別だ。
ずっと焦がれていた片想いのあの人、その彼女が声を掛けるきっかけと共に目の前にいるのだ。
いくしかない。
そっと一度こぶしを握り、ウシッと心で気合を入れる。自然と距離を詰めるため、既に席を立った学生の残した食べ物の皿、ゴミを片付ける風を装って彼女に近づく。
人の動きもシャットアウトされているのであろう、気配すら感じてくれない。それでも彼女の斜め前に立ち、声をかける。
「あの…………」
勇気を振り絞り、若干震える声で呼びかけるも彼女に動きは見られない。
「あのっ!すいません!」
それでも彼女は気づかない。この本の呪いは相当強い、分かってはいたけれど心が折れそうだ。
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