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けれども俺は彼女と少しでも接点を持ちたい、これを逃せばまた見送るだけの日々に戻ってしまう。
正直、普通ここまでしない。店内で見ているであろう同僚達は不審に思っているだろう。
それでも、行動を起こした。彼女の肩に軽く触れ、小さく揺すりながら再び声を掛けた。
「あの、すいません、お客様。」
ピクっ!と肩を跳ねさせた彼女は、一瞬、何が起こったのか分からないとでもいう様に視線を彷徨わせ、そして俺の存在に気付いた。
目が合う、『ビックリした。私何かしたのかしら?』とでも思ってそうな、そんな顔。
ソレを小動物みたいで可愛い、なんて思ってはみてもおもてに出さず、すっと彼女に現実を告げた。
「お客様、ご注文の品が届いていますが……手をつけていないままで大丈夫でしょうか?」
指先で視線を誘導したその先、ギリギリのバランスで、パンケーキの上に鎮座する溶けきる直前のアイス。もうきっとホットではないコーヒー、そしてそれらを確認した彼女は、パンっ!と本を閉じ、驚愕に目を見開いた。
あわあわとナイフとフォークを手に取りいろんな意味でギリギリのパンケーキを攻略し始めた彼女、一口食べてしゅんと悲しみに眉を下げ、コーヒーを口に含みもっと眉を下げた。
無念の嘆きが聞こえそうな程に悔やみ、悲しむ彼女はそれでもしょぼんと小さく俺にお礼を告げ、食べる手を止めず、のそのそと力なくナイフとフォークを動かし続ける。
そんな彼女にうしろ髪ひかれつつもバイト終了時間を迎え、同僚達に冷やかされながらタイムカードを通した。その時にそっと、恥ずかしながらも同僚の一人にアレを包む様に頼んでおく。
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