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どうやら彼女も俺の事を知っていたらしい。朝の通勤時に、反対のホームにいる俺の読んでいる本が気になり、いつも俺を見ていたよう。見られている事に気付いた俺が彼女に文句を言うために声を掛けたとでも思ったようだ。
さっきカフェで顔を合わせた事は気付いていない様子。
別に気にしない、寧ろ俺の事を知っててくれていて嬉しいぐらい。それなのにいっそ泣きそうな程慌てる彼女につい、小さく笑みが零れた。
ピクっと何が起こったのかと動きを止める彼女、そっと俺もタネ明かしをしよう。
「気にしませんよ、寧ろ今聞くまで朝、貴方が俺を見てるなんて知りませんでしたから。」
え?どういうこと?じゃあなんで、と視線で訴える彼女。……流石に店員の顔なんて見てないか。
「声を掛けたのは貴方があまりに残念そうに食べていたからです。俺、さっきのカフェの店員ですよ。ついでに言うと俺も貴方のこと前から知ってました。」
いつも、改札を抜けるギリギリまで本を読んでいるでしょう?
そう俺が言うと、再度ビクリと驚きと恥ずかしさに表情を変える彼女。今日俺が見てるだけで何度驚いているんだろうか?彼女。
「だから、おあいこです。」
そう言って俺が苦笑をこぼすと、ぽっ、ぽっ、ぽっ、と顔を赤く染めた彼女は熱くなった頬を冷ますかの様に両手で頬を包む。
ホントに、クールな見た目に反して可愛い人。
かぁ~っと彩やかに染まった顔のまま落とされた、小さな呟きに、今度は俺の心臓が跳ねた。
「……津村くん、そら反則やろ。」
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