彼女に向かう

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「俺だけ貴方の名前も知らないの、フェアじゃないと思いません?」 俺だって貴方の名前を呼びたいのに。 プラプラと、持ち上げた袋を揺らしながら彼女に微笑むと瞬く間に染まる彼女の頬、真っ赤っかでむしろ暑そう。 「キミに言われたないわ。私の方が全然不利やんか……三船加奈や、津村くんかてフルネーム教えんしゃい。」 じっとりとした目でコチラを見上げる彼女にフォンダンショコラの袋を渡しつつ答える。 「ふふふ、そんなことありませんよ。俺は貴方に振り回されっぱなしです。津村陸、陸ですよ加奈さん、呼んでくださいます?」 問いかけに彼女、いや加奈さんは袋をぎゅっと握りチラチラと視線を辺りに彷徨わせた後、不貞腐れた様な顔で俺を見上げた。 「……ホンマずるいわ。これで私より年下なんて恐ろしい。陸くん、タラシやろ、絶対モテる子やわ、あやうく惚れてまうとこやで。」 そんなつもりは無かったのだが、そう思われたのなら何より、だって。 「惚れてもらえたら嬉しいですけどね。俺、加奈さんの事好きなんで。」 はい、取り敢えずLINE交換しましょう?携帯出して下さい。俺がQRコード出しますから読み取って……はい、よく出来ました。ありがとうございます。 俺、帰る方向逆なんでこれで失礼しますね。送っていきましょうか?えぇ?そんなん大丈夫って?可愛いんですから夜道には気を付けてくださいよ。無事家まで帰れたらLINE下さいね、心配なんで。 ……あぁとか、うぅとか、なんの羞恥プレイやねんだとかブツブツ言いながら去っていく加奈さん。 最後まで真っ赤っかで、あのパンケーキの上に乗っていたアイスのようにドロドロに溶けてしまいそうだった、可愛い。 思えばある意味、初対面にも関わらず、つい、楽しくなっていじめてしまった。それに好きだとも伝えてしまったし……まぁ連絡先知れたし、これから好きになってもらえるよう頑張っていけばいいか。 そうだ、明日の朝は彼女を見つけてみよう。向かいのホームにいるみたいだし、明日が楽しみだ。 少し弾む足取りをそのままに俺は駅をでる、加奈さんはどんなLINEを送ってくれるだろうか? 進む夜道は俺一人。 良かった、周りに誰もいなくて、きっといま、俺の顔は溶け溶けだろうから。
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