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「主」の祝日
会社を起こした日に、五年付き合った彼女と入籍した。公私ともに「一国一城の主」となったわけだ。
それが2月11日だったから、周りからは「建国記念にかけたな」とからかわれたが。
しかし、三十年もたつと、いろいろと変化する。
経費節減で設立記念日の式典はなし。記念品もなし。
連休に入る前の金曜日に、全社一斉メールで「社長のことば」を配信し、役員とランチをしただけだ。
家庭でも、結婚記念日を祝う風習はとっくになくなっていた。
妻は子育てに趣味にと忙しかったし、私も多忙だったから、祝う余裕もなかったのだ。
というわけで、久々の休日に予定が入らなかった私は、リビングでごろごろしていた。
それを見かねたのか、妻と娘が「一緒に出掛けよう」と誘ってくれた。
これはかなり珍しい。
雪でも降るんじゃないか、と思ったら、外はチラチラと雪が降っていた。
向かった先は天満宮。
「何でまた……?」
「梅酒まつりやってんのよ。お父さん、好きでしょ」
大好きだ。大好きだが、この気遣いが気持ち悪い。
海千山千の経営者は、いつだって疑心暗鬼なのだ。
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