「主」の祝日

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三人でお参りしたあと、妻が本殿横のブースで梅酒まつりの回数券を3セット買ってきた。 妻も飲む気満々だ。 娘が何を企んでいるかは置いておいて、とりあえず梅酒を楽しもう、と私たちは居並ぶブースを覗いて行った。 「ああ、美味しい……」 薄桃色に染まった妻を見て、若かりし頃をふと思い出したとき、娘がおでんの入った器を両手に戻ってきた。 「おでん買ってきた。寒いから、テントの中で食べようよ」 風を防げるテント内は、かなり混雑していたが、娘が空いた席をすかさずキープして、私と妻を座らせてくれた。 「あとで代わってくれればいいから」という食いしん坊の娘らしからぬ気遣いに、どうも変だなと思ったものの、温かいおでんに梅酒という組み合わせは些細な疑問も吹き飛ばす。 ついつい、自分の回数券をあっという間に飲んでしまった。 ぽかぽかして気持ちいい。眠気すら起きてくる。 「お父さん、寝ないでくださいよ。ここからが大事なんですから」 妻がそう言いながら脇腹をつつく。 なんの話だ、と聞き返そうとした時、スーツを着た男が近づいてきた。顔は強ばり、ロボットのようなギクシャした動きだ。 怪しい。こういう顔をした奴はよからぬことを考えている。 妻と娘を守らなければ、と立ち上がりかけたとき――。     
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