「主」の祝日

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男は娘の前に立ち、大声で言った。指輪のケースをつきだしながら。 「け、け、結婚、してください!」 かなりザワついていたテント内がシン、となる。 娘はにっこり微笑んだ。 「私でよければ――よろしくお願いします」 歓声や拍手が沸き起こり、娘の細い薬指に、男が震える手で指輪をはめる。 顎が外れそうなほど口を開けている私の前に、娘と男が立つ。 「お父さん。驚かせてごめんなさい。私たちの結婚、許してくれる?」 またもや、テント内が静まり返る。こんな状況で「ダメだ」なんて言えるわけがない。 「娘を幸せにしないと許さんぞ」という定番の台詞を重々しく告げると、私たちは拍手と祝福に包まれた。 酔っぱらいどもに「おめでとう!」と握手を求められ、肩を叩かれ、もみくちゃにされながら、私と妻はやっとテントを脱出した。 「すごかったわねぇ」とのんびり言う妻を睨む。 「二人して謀ったな」 「だって、2月11日ですもの」 「建国記念の日に、俺の建てた国の一つが終わりを迎えるとはな」 今さらもう結婚に反対する気はないが、嫌みぐらい言いたくもなる。 だが、妻はにっこりと笑った。 「世界には、建国記念の日じゃなくって独立記念日をもうけている国もあるんですって」     
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