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車内は、暖まってきてマフラーは要らないほどになったが手はかじかんだままだ。指先は氷のように冷えていて、とても人の手とは思えなかった。手と手を目の前で重ねて息を吹きかけた。吹きかけた所からすぐに冷たくなって意味をなさない行動はいつものクセ。そっと右側から手が伸びてきて、私の両手を大きな左手が包んだ。
「ほらやっぱり冷たい。この間あげた手袋はもってこなかったの?」
酷いことを言ったのに、いつものように目を細めて笑うユウトがそこに居た。優しくしないでって言ってるのに…馬鹿ね、さっき言った言葉をもう取り消したくなってる。
「手袋ね。玄関の所に置いてきちゃった」
「君は本当におっちょこちょいだね」
そういって、私の手を握りしめたまま片手でハンドルをきって、海から離れていく。
この前の誕生日に、中側はモコモコの外側はレザー調のとてもシックな手袋をもらった。寒がりなのに、気にいるものしか身につけない私にユウトはドンピシャなものを用意してくれる。お気に入りのひとつだ。
いつも私のことを一番に考えてくれてるユウト。
そんな優しい人だから、きっと私がそんな状況だと知ったら
最後まで一緒にいてくれようとする。
だから、私は先にその手を離さないといけないんだ。
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