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ふぅ。
「ちょっと加奈子ちゃん。どうしたの?
今日は元気ないじゃん」
仕事中にも関わらず、溜息ばかり吐く私を見兼ねてか、バイト仲間の早紀江(さきえ)さんが声を掛けてきた。
早紀江さんは私と同じ38歳。
にも関わらず、色白もち肌、童顔で凄く若く見える。
場末の居酒屋とか、全くそぐわない。
「早紀江さん、本当にお肌キレイですよね。
化粧水、どこの使ってるんです?」
ついうっかり訊くと、まあテンプレ通り。
「えー。普通よぉ。無印とか」
そう。肌がきれいな人ほど、適当なの。
私なんて、娘の為とか言いながら、実はSK-Ⅱの為に働いてるんじゃと思う位、お金掛けてるっていうのに。
サプリメントに美容ドリンク、美容皮膚科。
出来る事は全部やっている。
なのに、このザマ。
ほんと、神様って不公平だわ。
ふぅ。
また溜息が出ちゃう。
「そんなにしんどいんだったら、ちょっとピンク行ってきたら。
今、お客さん少ないし」
そんな気遣いのある一言をさらりと言っちゃう早紀江さん。
肌だけじゃなく、内面も完全に負けてる。
妬んでるって? そんなの当たり前じゃない。
でも、出さないけどね。
私にも見栄があるんだもん。
「そうですね。そうします」
にっこり笑って奥へと向かう。
ちなみに『ピンク』はトイレの意味。
これ以上、ここに居たら妬みで潰れてしまいそうなので、暫しの現実逃避。
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