シミは恋を遠ざける。

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「加奈子ちゃん、今日は随分と荒れてたね」 店を閉めた後、キッチンの後片付けをしていると、店長が話し掛けてきた。 喋り口調は優しいけど、急にキレる独身46歳。 私はこの人が微妙に苦手だ。 何、考えてるのかさっぱり分らないし。 意味もなく上からだし。 『その態度が苛つくのよ!』 そう言い捨て、10年前に出ていったらしい、奥さんの気持ちがよく分かる。 でも、私は雇われの身。 ここは穏便に。 「いえ。そんな事はないですよ」 作り笑いを浮かべると、 「何でも相談してね。スタッフに支えられて、この店があるんだから」 と口調だけは優しい。 ここで、『じゃあ、美顔器、買ってください』とか言ったら、張り倒されるんだろうな。 そんな事を思いつつ、にっこり笑って、 「ありがとうございます」 と返事をする私は、意外に大人だと思う。
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