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シミは恋を遠ざける。
「はぁ……」
鏡に向かって、思わず溜息を漏らす。
別に顔立ちに不満がある訳じゃない。
自慢じゃないけど、生まれて此の方、自分を醜いと思った事など無い。
勿論、若い頃と違って、少し弛んでたり、小じわもちょこちょこあるけれども。
それでもやっぱり、『私、カワイイ☆』とか思ってしまう。
そうじゃなくて。
今の私の困り事。
それは、無数に点在する目の周りのシミだ。
どれも小さいものだけど、見る都度、気持ちが下がる。
ちょっと前まで、こんなシミ、全然無かった。
うん、絶対。
大きく頷き、改めて鏡を見た後、さっきより更に増えた気がして、慌てて目をそらした。
それにしても、お手入れサボった訳でも化粧品変えた訳でもないのに。
なんでだろ?
そう思いながら、ここ半年間の自分を省みた。
思い当たる事と言えば、最近始めた居酒屋のバイトくらい。
でも、市役所の給料だけじゃあ、全然足んないし。
離婚するとき、ちゃんと慰謝料もらえば良かったなぁ。
そんな事を思いながら、これでもかとばかりにホワイトニング美容液を塗り込んでいると、背中越しに娘の夏鈴に呼ばれた。
「ママー! 圭くんのトーク番組やってるよ!」
「えっ!! 知らなかった!!」
急いでテレビの方を振り向くと、キュートな笑顔で趣味の銭湯巡りの話をしている田中圭と目が合った……気がした。
やだ、シミとか忘れてキュンキュンしちゃう。
ときめき乙女モードフラグ立ちまくりで、きゃいきゃいしてたら、夏鈴がボソッと呟いた。
「ママ、キモイ」
心無い一言に抉られる。
……って、ダメよ、ダメダメ! 落ち込んでる場合じゃない。
ここは親の威厳を見せないと!!
「い、いいでしょ!
ママだって、まだ30代なのよ。独身なのよ。
圭くんと付き合う可能性だってあるかも知れないじゃん!」
そんな私の必死の抗弁を夏鈴はいとも簡単にぶった切った。
「ある訳ねーだろ!
あたしが、セクゾの佐藤勝利と付き合うより無いわ、それ。
沸いてんのか。
大体、圭くんと付き合う積もりなら、そのシミ、何とかしろよ」
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