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切れのある金属の音色が森に煌めく。
六尺余りの錫杖の柄尻を地面に打ち突け、千毒という若者がしたたかにはびこる深緑を切り拓いていた。
一見、遊行の僧にも見える。
しかし穏やかではない名前を体現するかのごとく、らんると見間違えるような墨染の裳付衣のほうぼうが鋭利に切り裂かれ、こびりついた汚れが赤黒いまだら模様を描いている。
さらには、手のひらに収まるほどの小さな瓢箪が、腰まわりにいくつもくくり付けられていた。
頭も剃髪がほどこされておらず、髪は伸びるがままに放置されてざんばらとなっている。
生来の毛質なのか、それとも皮脂で固まってしまったのか、毛髪の束が針金のように尖っていた。
唐突に千毒の歩みが止まった。
頬がこけ、無精髭の生えた精悍な顔立ちを傾げて耳を澄ませる。
「……随分と猛ってやがるな」
奇妙にかすれた声だった。
千毒が、樹冠の狭間から覗く赫い満月を見上げると、錫杖の環がかち合って音色を散らした。
「また、上物の娘でもかどわかしやがったか」
苦々しく鼻を鳴らすと、金環を鳴らして遠吠えの聞こえる方角へと足を向けた。
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