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「妙だな……」
千毒は枝を飛び移って逃げる狒々の異変に気づいた。
今まで来た道のりを弧を描くように戻っているのである。
群れが移動しているのか? ならばその行き着く先は……。
「かずら」
千毒の表情に焦りが生まれた。
何故だ。初めて会った女にこうも胸騒ぎを覚えるとは……。
いや、本当にそうだろうか?
かずらの面差しを見た時の既視感を思い出す。
そして同じ――。
「っと!」
思考に気を取られ、複雑に折り重なった枝葉の陰に狒々の姿を見失ってしまう。
腐葉土を跳ね、慌てて立ち止まった千毒の耳に遠くから狒々の悲鳴がかすかに届いた。
あの勇ましい出で立ちからして、滅多なことはないと思うが……。
今度ははっきりと複数のけたたましい鳴き声が聞こえて来る。
「えぇい! 猿どもが居るならどこでもおんなじだ!」
ためらいの色を消し、かずらが居るであろう場所に向かって駆け出した。
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