猫など居なかった

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 まれに見る大雪の日。  道路を滑らないように歩いていたら、道ばたの雪の中から何かが突き出ているのが見えた。  そろそろと近づいてみれば、それは何かの尻尾のように思われる。  まさか、と思い雪を掻き出してみれば、一匹の猫が凍り付けになっていた。  ……死んでいるのだろうか?  いや、凍り付いた体を温めれば蘇るかもしれない。  一縷の望みを託し、俺は滑らないように気をつけながらも、早足でその場をあとにした。 「で、コンビニなんだ」  六実先輩は面倒くさそうに、レジのカウンター越しに俺が抱える猫を覗き込む。 「お湯で溶かすつもり?」 「はい、近場で温めるものと言ったらコンビニのお湯しか思いつかなかったものでして」  申し訳なさそうな俺に、六実先輩はため息をついた。 「あのねぇ、ラーメンじゃないんだから、熱湯をかければいいってもんじゃないわよ? 下手すれば生身の肌が火傷しちゃうじゃない」  そう言われて自分のそそっかしさに気付く。  確かに溶かせばいいってもんじゃないよな。  動物なんだから。 「でも――、ちんたらしてたら、まぁ生きてたらの話しだけど、猫の命に関わるわよね。とにかくお湯をかけるしかないか」  それからの六実先輩の行動は早かった。
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