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「味がついてる食べ物が出てくるだけじゃねえか…」
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俺が早く走れないのにはいろいろ理由がある。まずは靴。これが俺に合っていない。靴自体の質が悪いというのもある。この靴を作ったメーカーはよろしくない。そしてこの靴を勧めてきたあの靴屋の店員。これもよろしくない。折り重なった様々な不幸が俺の足をグイグイと引っ張っている。だから早く走れない。もっと大きな足かせも存在する。この大地だ。俺が早く走れるようにできていない。さらに重力という見えない力を使って意地汚い妨害までしてくる始末。そう、俺は早く走れない。
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ねっとりと湿り気を帯びた声でその男は私の耳元で歌い出した。椅子に縛られた私は、目を硬く閉じることしかできなかった。ささくれ立った金属同士を滑らせるような音も加わる。男があの刃物を研ぎはじめた。
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「あーいやだ、きたならしい、きたならしい…」
老婆は生ゴミを捨てるような声を少女に吐きかけ、木戸を締めた。
「待ってください…お願いです…」
少女は握った小さな手で戸を叩いた。
「いつまでもそこにいるんじゃないよ。どこか行っちまいな!」
かんぬきをかける音とくぐもった声だけが返された。
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「ふん♪ふふーん♪ふふん♪ふーん♪」
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