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彼女の鼻歌がスキップしている。このメロディは洗濯物が気持ちよく干せる晴れの日の喜びを讃えたものだ。彼女は鼻歌のレパートリーを三十曲ほど持っている。最近、僕はそれらを全部聴き分けられるようになった。一緒に暮らすようになって、それくらいの年月が経った。
俺はベランダに立つ彼女の後ろ姿をじっと見つめた。そして心の中でカメラのシャッターをそっと切った。
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子供達の弾んだ声が幼稚園のあちこちで飛んだり跳ね返ったりしている。小さい頃遊んだボールプールを思い出した。色とりどりのプラスチック玉がたっぷり入った柔らかい檻。デパート屋上にあった。
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「ここが使い時だ。明日のための力を取っておこうなんて考えるな。今を乗り越えなければ明日なんて無いんだからな」
彼は低くそう俺に言った。
「ああ、分かってるよ」
俺は剣の柄を握る手に力を込めた。
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私にとっては大金でも、彼には取るに足らないものだ。ならなぜ彼は払うのを渋るのだろうか。私に会うための口実。まさかね、そんなことあるわけない。地球がひっくり返ったってそんなこと…。
私は携帯電話を取って、彼の番号へリダイヤルした。
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無機質なアラーム音。妹の明るい声で起こされなくなって一週間が過ぎた。こんなことなら妹の声を録音しておけばよかった。それを目覚ましにすれば、もう少しマシな朝のスタートをきれたはず。いや、そうじゃないな。声が欲しいんじゃない、あいつの存在が俺には必要なんだ。
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