4385人が本棚に入れています
本棚に追加
が、一歩そちらへと向いた足は辿り着く前に歩を緩める。
「練習の迷惑ですよ」
冷たく言い放ったその言葉に逆らう者などいはしない。
モーゼの如く道が開かれ、向こうから彼が歩いてきた。
いや、わかってはいたけど。
「庵様、お勤めご苦労様です」
別にお勤めをした覚えはないのだが、そこに突っ込んだところで適切な答えが返ってくるわけでもない。
「練習はもうお終いですか?」
「ちょっと注意をね」
彼に言われて、とクラス委員長を見れば、メガネの奥の鋭い目が委員長を捉えた。
どうやら、彼の中での委員長と俺の関係の捉え方は他とは違うようである。
そういう彼は何故ここに来たのだろう。
制服で来るだなんて、練習をしに来たわけではないだろう。
「野次馬が貴方にご迷惑をお掛けしていないかと思いまして」
それはそれは。
親衛隊というのも色々気を使わなくてはならないようで……
大変だね。
そこら辺、彼は抜け目ないからな。
彼が来たことで、野次馬が早速さといなくなったのは確かだ。
「練習を見学しても?」
そう言われてしまえば、否は言えない。
野次馬どもを散らしてくれた恩もあるし。
減るもんでもないから良しとするか。
練習を再開した俺らを眺める彼は、一体何を考えながらその様子を観察していたのだろう。
練習の度に行われるその行為の意味がわからないまま、スポーツ大会は当日を迎えた。
最初のコメントを投稿しよう!