4385人が本棚に入れています
本棚に追加
(Side:工藤)
ボールを呼べば、クラスメイトは驚いた顔を見せたが指示通りボールが集まってきた。
同じように相手にもボールが集まる。
認めたくはないが、実力は互角。
でも。
負けるわけがない。
2点差で迎えた、恐らく最終ターン。
これを打たせなければ勝ち。
そう確信して手を出した時。
ボールが彼の手から消えた。
目がボールの行方を追ったときにはすでにボールは放物線を描いていて。
ブザーの音が響く。
歓声がブザーの音を搔き消し、聞こえないはずの2人のハイタッチの音が聞こえた気がした。
呆然と立ち尽くす中、クラスメイトに背中を叩かれ意識を時計へ移せば、庵様の試合が始まる時間が差し迫っていた。
「約束、いいですよね」
呼び止められた声を無視しても良かった。
でも、そうしなかったのは、その言葉が不服だったから。
「約束だなんて、よく言えますね」
小馬鹿にしたように笑ってやる。
「勘違いしないでくださいよ。俺は『勝ったら』と言ったんです。そこに1on1というルールなんてなかった。だから、誰に頼ろうと構わないでしょ。時には頼るってことも大事ですよ」
この男は、こちらが他人に頼ることなどしないことをわかってて、あえてそう言っているのだ。
誰かに頼るだなんてあり得ない。
庵様以外、周りは皆敵なのだから。
でも。
ハイタッチをする2人を見たとき、少しだけ、ほんの少しだけ、羨ましいと思ってしまったのは。
きっと気のせい。
そう言い聞かせ、すでに始まっているであろう庵様の試合へと急いだ。
最初のコメントを投稿しよう!