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起き上がり、結月の頭にポンポンッと手を置いた。
「信じてみな」
柔らかな笑顔が俺に向けられた。
純也の病室へ向かう途中、結月の姿に気が付き、年配の女性が手に洗濯物を抱えたまま走り寄ってくる。
「結月ちゃん、結月ちゃん」
純也のお母さんよ、結月が耳打ちをした。
「さっきね、純也が目を覚ましたの! まだ朦朧とはしてるけど、あの子、もう大丈夫よ」
言葉の語尾は泣いてかすれていく。呪術は間違いなく解けたようだ。
「よかった。本当によかった」
見ると結月も泣いている。嬉し泣きなら、まあいいか。俺はゆっくり、二人に背を向けその場から遠ざかった。
逢いたい人に 会いに行っておいで。
病院の屋上へ出た。左側は物干し場があり、白いシーツが風に吹かれ、パタパタと音を立てている。右側はベンチが幾つも並んで置かれていた。
そのまま、正面へと歩いた。高く作られた金網の向こう、見下ろす先に街並みが広がる。
逢いたい人―― 彼女のことを思い浮かべていた。
守護天使を統率する役目にいた俺は、たびたび人間界に降り立っていた。
死神が冥界と人間界を行き来するために使う、時の扉を必要とせず、高位天使である為に、当たり前に訪れることができる世界だった。
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