79人が本棚に入れています
本棚に追加
/154ページ
心はきっと、読まれている。
「天に戻れることはないのでしょうか」
わかりきった質問だった。それでも、聞かずにはいられない。
『悪魔として生きよ』
逢いたい人がいる。悪魔では叶わない望み。
『ほう、まだ愛していると申すか』
驚き、顔を上げた。広すぎる謁見の間、遠く正面の玉座に冥王ハデスはいる。傍らに佇む妃の姿。
「無礼な、顔を下げよ」
側近の者の叱咤に顔を下げた。
なんて存在感。なんて威圧感。ただ玉座に居るだけで、周りの空気が震えそうな程に張り詰めている。あれが、冥界の神なのか。
『ラビエル、お前は悪魔だ。人の子に愛されると思うか』
天使の姿で出逢い、愛されたことさえ奇跡だった。
黒い翼、俺は悪魔だ。絶望に揺らぐ。
「愛して……… いたのです」
一瞬の沈黙を破り、透き通る女性の声が響く。
『ならば、人間界に参ればよい』
「ペルセポネ様、それは成りません」
側近達がざわつく。今の声は、冥府の女王ペルセポネなのか。
『ラビエル、その姿でも逢いたいか』
ペルセポネの凛とした声が続く。
「叶うなら、一目だけでも」
何百年の時を過ごした間、たった一度だけ、愛した人。
『しかし、ペルセポネ。掟は掟じゃ』
最初のコメントを投稿しよう!