制約

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『あら、いいじゃありませんか。貴方様だって、無理矢理私を此処に連れて来られたでしょう』  拍子抜けするほど明るい、冥府の女王。確か、まだ俺が天使だった頃、ハデスは天界に住むペルセポネ様のあまりの美しさに恋をし、押しておしまくり妃にしたと噂を聞いた。 『人間界へお行き。だが、そこで何を見るか。もしや苦しむかもしれん。覚悟があるなら、許可しよう』 女王の言葉に、側近達はもう誰も意を唱えない。 『我が妃の采配じゃ。認めよう、しかしラビエル、制約を与える』 制約__ つまり、人間界へ行く上で課せられる条件。 『人間界を騒がす程に、悪魔の存在が知れれば死罪とする。どんな理由も問わずだ、よいな』 深く頷いた。死罪、この命の消滅。 『期限は設けん、好きにするがよい。但し、時折従者を送らせる。報告は怠るな。身を隠すな。命令には従え。よいな?』 「承知致しました。感謝致します、ハデス王、女王様」  再び、カロンの案内で霧の中を進んだ。焼け焦げた翼、捻り曲がる角。その姿を追い飛び続ける。  やがて霧を抜け、身体よりはるかに大きな時計台に辿り着く。古びた秒針が、一秒、また一秒と時を刻む。 「滅多にないぜ、こんな案内」 カロンは口をあんぐり開けて驚いていた。 「死神が往来に使う扉だよ」     
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