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たった数日間、過ごした部屋に辿り着く。誰かが帰りを待っている。ひとりきりで時を経た俺には、考えられないことだった。
「もう、戻って来ないのかと思った」
帰り着いた俺を前にして、結月が目を潤ませた。
「よく泣くやつだな」
開けたままの窓だった。病院からいなくなったままの俺を、不安な想いで待っていたのかもしれない。
「もう大丈夫だ。病院へ行こう」
ソファから立ち上がろうとした時、視界が揺れた。グラリと崩れる姿勢。
「疲れているのね。横になって眠って」
結月が心配そうに、俺の顔を覗き込む。
「少し………だけ」
早く病院へ行こう、結月を連れて。思いながらも身体は深い眠りに吸い込まれていく。魔術を使ったせいだろう。どうしようもなく、眠い。
こんなにも深い眠りに誘われたのは、いつ以来だろう。
髪を優しく撫でる手を感じて、眠りから覚めた。目を開けると、結月がソファに横たわる俺の傍らで、絨毯の上に座り込み寄り添っていた。
「起きたの? 流依」
久しぶりに結月の笑う表情を見た。
「病院へ行こう」
「でも………」
結月は躊躇していた。意識の戻らない純也を考えたのだろう。
「もう大丈夫だ。さっき言ったろ?」
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