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|結月《ゆつき》
朧月の夜。
空から―― 落ちた。
「大丈夫ですか? やだ、どうしよう」
耳元で聞こえる。若い女性が身体を揺さぶる。
「ん………っ」
起こそうとした身体に痛みが走る。
「救急車呼びますね」
駄目だ。反射的に直感する。四角い何かを耳にあてた彼女の腕を掴んだ。腕が痛む、止めるだけでやっとだ。
「大丈夫だ。人は呼ばないでくれ……… 頼む」
時空を越え、どうやら人間界へは辿り着いたようだ。だけどまさか、空から落ちるとは。
翼はどうしたんだろう。目は霞み、意識は途絶えた。
ここは何処だ。気が付くと、あたたかな布団に寝かされていた。枕元に薄灯りがあった。見渡すと、人間の部屋だとわかる。
小さな窓。小さなベッド。小さな、家具。いつか愛した人の部屋を思い出した。
「起きたのね?」
レース越しの向こうから、先程の女性の声がした。身体を起こした。
まだ痛むけれど、痛むだけだ。怪我をすることはよほどじゃなければ無い。そんな身体なんだ。
「病院嫌みたいだったから」
レースのカーテンが開かれ、温かい飲み物を運んで来る。
「悪い、迷惑をかけた」
ベッドから起き上がり、そこへ腰を掛けた。
「空から降ってきたお兄さん、名前は?」
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