第一章 危険な仮面舞踏会(1)

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 ふたりがいる小さな部屋は家具調度もほとんどなく、がらんとしているせいで実際よりも広く見えた。それだけによけいに寒々しい。  かちかち鳴りそうになる歯をぐっと噛みしめ、クロエは背筋を伸ばした。 「と、とにかくお給金は何とかします。全額は無理かもしれないけど、遅配分はちゃんと帳面につけてあるから心配しないで、ね」 「心配なんかしてません。あたし、そんなにたくさんのお金は必要ないですし、いつまででもお嬢様にお預けしておきます」 「ありがとう、ジゼル……。そんなこと言ってくれるのはあなたたち姉弟とマドレーヌくらいなものよ」  何人かいた使用人は給料の遅れに嫌気がさし、次々に辞めたり余所の屋敷へ移っていった。今では残った三人がどうにか切り盛りしてくれている。  もちろんお嬢様とはいえクロエも出来るだけ家事は手伝う。それでも正直、貴族の体面を保つことさえ難しい状況だ。 「無理をしてわたしを修道院の寄宿舎に入れたりしなければ、だいぶお金が浮いたのにねぇ。まぁ、読み書きやら音楽やら絵画やら、ひととおり学べたのはありがたいけど」 「そうですよ。あたしもお嬢様のお付きになったおかげで字が読めるようになったんです。書くのはちょっと難しいですけど」 「せめて、もっと寄宿料の安いところにすればよかったのに、おばあさまったら見栄っ張りだから……」     
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