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第一章 危険な仮面舞踏会(1)
「だめ……、今月も赤字だわ」
頭を抱えたクロエを、側に控えた同い年ほどの侍女が気の毒そうに見つめる。
「あの、お嬢様。あたしたちのお給金でしたら、後回しでも全然──」
「何を言うの、ジゼル」
おずおずと言い出した侍女に目を瞠り、クロエは限界まで削った鵞ペンを放り出した。ジゼルは首を振り、決意のまなざしで続けた。
「お給金をいただかなくても、住み込みですから寝る場所と食べるものには困りません」
「いいえっ、困ってるわ! 食料はツケがかさんでるし、どのお部屋もすきま風が吹くし、それに──っくしゅ!」
クロエはぶるりとふるえ、擦り切れた毛皮の肩掛けをぎゅうぎゅうに巻き付けた。ちらと火の気のない暖炉を見やり、ペチコートを何枚も重ねたスカートの中で両足を絡ませる。
「……暖炉の薪もぜんぜん足りない。いつかみたいな大寒波が来たら、わたしたち全員凍死してしまうわ」
節約のため暖炉は日が沈んでからしか焚かないことにしている。それもいちばん狭い居間と祖母の寝室だけ。
クロエはかじかむ指先に息を吐きかけ、膝に置いた古ぼけたマフの中に手を突っ込んだ。
まさか家の中でマフを使うはめになるなんて……。
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