第一章 危険な仮面舞踏会(1)

1/11
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/220ページ

第一章 危険な仮面舞踏会(1)

「だめ……、今月も赤字だわ」  頭を抱えたクロエを、側に控えた同い年ほどの侍女が気の毒そうに見つめる。 「あの、お嬢様。あたしたちのお給金でしたら、後回しでも全然──」 「何を言うの、ジゼル」  おずおずと言い出した侍女に目を瞠り、クロエは限界まで削った鵞ペンを放り出した。ジゼルは首を振り、決意のまなざしで続けた。 「お給金をいただかなくても、住み込みですから寝る場所と食べるものには困りません」 「いいえっ、困ってるわ! 食料はツケがかさんでるし、どのお部屋もすきま風が吹くし、それに──っくしゅ!」  クロエはぶるりとふるえ、擦り切れた毛皮の肩掛けをぎゅうぎゅうに巻き付けた。ちらと火の気のない暖炉を見やり、ペチコートを何枚も重ねたスカートの中で両足を絡ませる。 「……暖炉の薪もぜんぜん足りない。いつかみたいな大寒波が来たら、わたしたち全員凍死してしまうわ」  節約のため暖炉は日が沈んでからしか焚かないことにしている。それもいちばん狭い居間と祖母の寝室だけ。  クロエはかじかむ指先に息を吐きかけ、膝に置いた古ぼけたマフの中に手を突っ込んだ。  まさか家の中でマフを使うはめになるなんて……。     
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!