デートは武道館で(転の章の始まり)

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「お前らのせいだ。あのお方に、顔向けが出来ぬ。クソ~。」  相手のキャプテンの安達が頭を掻きむしり、うずくまる。  それでも、メンバーが黙ったままであったが、安達が立ち上がった瞬間、恐怖に脅えた。安達の頭に角が生えている。瞳は真っ赤に燃え、吊り上がり、口に虎のような牙が生えている。安達が鬼に変化したのである。 「オマエラ ユルサヌ・・・」  それにシンクロするかのように、残りの四人も鬼に変化しないものの、 精神に異常をきたした。  そこからは、世にも恐ろしい女鬼、髪を引っ張り合い、顔をかきむしり、腕に噛み付つく般若のような争いに、観客は悲鳴をあげ、出口へと殺到する。中には、実際に気を失う者もいた。 「いけませんわ。」 「承知。」  若い頃、結婚まで誓い合った二人だけあって、以心伝心。一階へと階段を駆け下りる。  奏絵さんの五感はこれ以上なく研ぎ澄まされ、乱闘騒ぎの中心に静かに歩み寄る。  一番近い女鬼の肩に触れた。決して、つかんではいない。ただ、触れただけで、その手で小さく円を描いた。それだけで、その女鬼がストンと腰を床に落とす。  ポカンと口を開けて見上げるが、殺気は消えていない。  奏絵さんにすぐに襲い掛かるが、体に触れることはできず、宙を舞う。  祖父も、残りの女鬼と同じように、闘っている。一切の手加減なんかしない、容赦ない。当身も入れまくる。  僕の祖父は武術の世界、闘いの場において国籍、男女、年齢の差は関係ないといつも言っている。クソ・リアリズムだ。  しかし、実際、いくら床に叩きつけてもすぐに起き上がってくる女鬼どもに手を焼いているのも事実だ。 「奏絵、笛じゃ。笛を吹け。」 「承知。」
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