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第五話 小説
「どうしたの!? これ?」
翌日の部室にて、俺は小説の原稿を緑子に渡した。唐突に小説の原稿が出来上がって来たので緑子が驚いている。
「読んで。季刊誌には載せない。緑子だけ読んで」
「なんかあったの?」
「川上に彼女できた」
「ああ……」
その言葉で緑子は察してくれたようで、小説を読み出した。
俺の書いた小説は、それはそれは陳腐な小説だった。ごく普通の女の主人公が、心が綺麗な男に片思いして、少しずつ歩みよって、恋人同士になるだけの話。
小説の中の女は俺、男はあいつ。小説はただただ俺の願望を書いただけのものだった。
ここ数年よくある、冴えない主人公が異世界に転生して超強くなって女にモテるっていうのあるだろ。ただ作者の願望叶えるだけのやつ。あれと一緒。ただの自分のための小説。
だけど、書いてみて、ああいうただただ自分の気持ちを満たすための小説を書くやつの気持ちがわかった。言葉にして吐き出すと、少しだけ楽になるのを感じた。
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