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「そもそもあいつが小説書き始めたきっかけがさ、本屋でたまたま読んだ小説に感動して、それがネットに投稿されたケータイ小説の書籍化作品だったから、だからね?その時点でクッソベタだよね」
俺は、ホチキスで冊子を留めながら話した。この冊子は、俺が所属する文芸部で作った季刊誌だ。現在の話し相手である緑子は、俺の正面に座って俺と同じように作業しながら俺の話を笑って聞いている。
「その川上くんが感動した小説って?」
俺がタイトルを言うと、
「うわあ、ほんとにベタ!」
と緑子も笑い出した。そのタイトルは実写映画化され大ヒットした有名タイトルだ。
「たださ、川上くん若干少女趣味じゃない? その作品にしても女子中高生ターゲットじゃないの?」
「あいつただ涙もろいだけだから。『はじめてのおつかい』で涙腺崩壊するやつだから」
「だははは。川上くん文芸部誘わない? これに載せちゃおうよ。そのベタ小説」
「俺もそう言ったんだけどさ、サッカー部で忙しいからなあ。何気にキャプテンだし。こういう作業に参加できないのにかけもちなんて無責任なことできないって」
「あは、またサッカー部なとこもベタだよねー」
「でしょ」
というわけで文芸部に所属できないあいつは、ときどき小説投稿サイトに小説を投稿している。わりと本気で書籍化を夢見ながら。
「それにしても、東村くんってさ、いつも川上くんの話しばっかしてるよね。東村くんって、川上くんのこと大好きだよねー!」
緑子が、出来上がった冊子をまとめながら言った。東村は俺ね。東村康基。高校二年。
「まあたしかに好きだけどさ。面白いんだもん、あいつ」
「……その好きって、恋愛的なやつ?」
俺は思わず咳き込んだ。
「何言ってんの。違うから。ボーイズラブ読みすぎじゃね?」
「でもさあ、このあとも、サッカー部終わった川上くんと一緒に帰るんでしょ?」
「友達なんだから当たり前だろ? 勝手に恋愛にしないでくれる? あいつとは友達だから」
「ふーん? まあいいけど」
やっば。危うく腐女子緑子の妄想の種にされるとこだった。いや、あいつとは友達だし。そんなんじゃないから。
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