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第二話 帰り道
「ところで東村くん。今回の季刊誌もろくに小説書かなかったわね。読書感想文だけじゃん」
緑子が鋭い視線で詰め寄ってきた。
「いや、しょうがないじゃん。書きたいことなくてさ」
「もー。東村くんてば、川上くんの小説を笑ってるけど、ちゃんと小説書いてる川上くんを笑ってる場合なの? なんでもいいから小説書きなよ。文章力あるのにもったいない」
「なんでもいいって言われても……」
俺も、一応文芸部員だし、入部してから短編小説は何作か書いている。だけど、まれに書きたいことを思いついたら書くという感じで、かなり寡作だった。今回の季刊誌も、締め切りまで一応考えたが、結局何も書けず、最近読んだ小説の感想でなんとかページを埋めた。
「いい? 次の季刊誌こそは小説書くんだよ! 何ページでもいいから」
「わかったよ」
俺は生返事をしながら帰り支度をする。そろそろ川上の部活も終わる時間だ。
今回の季刊誌が来月の文化祭用だから、次の季刊誌は年越して、三学期になるな。それまでには、なにか書けるだろうか。
さっきまで騒がしかった吹奏楽の練習も止まり、学校は静かになっていた。人気のない下駄箱で外靴に履き替え、昇降口の前で川上を待つ。サッカー部の連中の姿がまだ見えないので、もう少しかかるのだろう。俺はスマホでニュースを見ながら時間を潰す。
LGBTの人が結婚式を挙げたニュースがあった。女性同士のカップルが二人ともウエディングドレスを着て笑っている写真を冷ややかな目で見つめる。こんなの見せられても、ふーん。
としか言いようがない。しいて言うならどっちもまあまあ美人だから絵になってて良かったねって感じ。そのニュースには「私は、LGBTではないけど、偏見はありません」的な陳腐なコメントが並んでいて、さらに薄ら寒い気持ちになった。偏見がないからなんだっていうんだろう。
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