第二話 帰り道

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「ひがしむらー!」  あいつの元気な声が俺を呼んだ。川上だ。  川上は綺麗な笑顔で俺のところに来た。川上は、高校の校則に引っかかりようがない短髪の黒髪に、そこそこに整った顔、学ランに白いスニーカー、黒いリュックを背負っている。悪く言えば凡庸、よく言えば非の打ち所がない、爽やか高校生だった。唯一の欠点はやや背が低いことか。165ぐらいだ。あと5センチ身長が欲しいと言って健気に昼休み牛乳を飲んでいる。  俺は川上に返事をすることもなく歩き出した。いつものことなので川上もなんら気にせず横を歩いてくる。俺の高校は、田舎にあり、基本帰り道は田んぼだけど、ぽつぽつ高校生を誘惑する店がある。  マックのポテトというこれまたベタな誘惑に負けた川上につきそいマックに入る。 「東村もなんか買おうよ」 「俺いらない」 「もー。そう言っていつもポテト一口持っていくくせに」 「一口でいいし。一人分もいらないんだよ」  俺たちはマックに来ると毎度この会話をする。マックの店員もこいつらまたこの会話してんのかよと思ってそうだ。  マックのポテトMサイズ一個だけをテイクアウトした俺達は、田んぼと車道に挟まれた歩道を歩く。川上はいつも車道側にいる。川上はポテトを最初は一人でもそもそとつまむが、しばらくすると、 「東村食べないの」  と言って俺の前にポテトを掲げてくる。 「いいの?」 「いいから食べなよ。僕一人で食っても美味しくないじゃん」 「じゃあもらう」  さっき川上が、俺がいつも一口持っていく的なことを言ったが、本当のところは川上が食え食えうるさいからなのだ。俺は二本ポテトをつまんで食べると、それで満足した。俺がすでに満足したことに川上も気づいていて、 「東村ってあんまり食べないよね。なのになんで背が高いの」  ただの遺伝だ。母親が168あって父親が183あるからだ。俺は178ある。そしてまだ身長は伸びている。だけどこんな理屈を言ってもしょうがないので、 「知らねーよ」  と返した。 「ふーん」  川上はポテトをついばみながら俺を見上げる。いつもにこにこしているくせに身長のことを考えているときは恨めしそうな顔をする。   俺は川上に上目遣いで見つめられるとなぜかむず痒くなる。だからすぐ目をそらした。
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