第二話 帰り道

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「あ、そうだ、昨日いい曲見つけてさ」  そう言って川上は、スマホについたイヤホンの片側を俺に渡すと、YouTubeを再生した。米津玄師の新曲だった。CMで散々流れているのでものすごい今更感。いい曲だけどさ。 「な、な、かっこいいだろ」  きらきらした顔でこんなふうに言われると、頷いて聞くしかなかった。川上がいいよと言ってきた音楽だの映画だの小説だので意外性があったことなんてただの一度もなかった。いつも大衆に受け入れられ大ヒットしたものを超いいもの見つけちゃったって顔で俺に紹介してくれる。  俺は、ヒットしたものをなんの疑いもなく受け入れ楽しむやつらなんて、本来大っ嫌いだ。つーか、この田舎にいる高校生なんぞ皆そんな感じだ。なのにそれなのに川上のことは大好きだった。他のやつらと何が違うのかわからないけど、川上のことだけ好きだった。だから俺は川上ぐらいしか友達がいない。川上は他にも友達たくさんいるけど。 「あ、それから、授業中にさ、また新しい話考えたんだ。超面白いやつ。先生に見つからないように頑張ってメモったよ」  授業中に他ことを考えて、ちょっと道を踏み外した自分に酔っている川上が目に浮かぶ。授業中に他のことをやっちゃうのが通常運転の俺からするとすごいくだらないけど面白くてしょうがない。それも自分で新しい話が超面白いとか言ってハードル上げちゃって。  夜九時ぐらいにあいつの新しい小説が小説投稿サイトにアップされた。あいつは本名で恥ずかしげもなく小説を投稿している。  内容は、主人公が屋上でメシ食ってたら女の子が飛び降り自殺しようとしているのを見つけてそれを止めて、話を聞いてみたら女の子が学校でいじめられてて、主人公がペラッペラの綺麗事言って、女の子が自殺を思いとどまる話だった。はっきり言ってなんの新味もなくてクソつまんない。だけどこれを面白いと信じて疑わない川上が面白すぎる。俺は、川上も知っているアカウントで「いい話だった」とコメントした。さらに川上の知らない別のアカウントでも好意的な感想を送った。川上に変わられたら嫌なんだよ。絶対このままでいて欲しい。
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