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しかし、その右手が振り下ろされることはなかった。ママはパパに屈することなく、強い眼差しでパパの目を見つめていたのだ。
私はその一部始終を、ただ呆然と眺めていた。
パパが無言で部屋を出て行ったあと、ママはしょんぼりと部屋を片付け始めた。
もちろん私だって、ママが私の誕生日を忘れていることくらい気づいていた。でも十一歳にもなって、そんなこと恥ずかしくて言えなかっただけだ。ママに自発的に思い出して欲しかった。
だから落ち込んだママの姿を見て、心の底で思った。パパに怒られてやんの、ざまあみろと。
しばらくして頼んでいた宅配ピザが届くと、「夏芽、食べよう!」とママはいつもの元気を取り戻した。
私はママの横でピザを食べながら、大声で叫んだ。
「最っ低の誕生日!」
* * *
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