1 家族の記録

10/13
前へ
/254ページ
次へ
 その喧嘩の一週間ほど経った日曜、ミーコが新婚旅行のハワイ土産を携え、うちにやってきた。もちろん、自分が二人の喧嘩の原因となったなどとは露知らず。  お土産は、ハワイアンキルトのクッションカバーだったと記憶している。私は、その赤く大きな花柄を見ながら、ミーコとママのセンスは似ているなと思った。ママのエプロンには、真っ赤な大きな花が毒々しく描かれていたし、ミーコのワンピースには、色とりどりの毒々しい水玉が、めいっぱい散りばめられていたからだ。  ママはケーキを焼いていた。いつものピンクや紫のクリームを使ったド派手ケーキだ。ママは私に「もうすぐ終わるから、ミーコとお話ししてて」と言って、キッチンに消えた。 「あけましておめでとう、夏芽ちゃん。大人っぽくなったわねぇ」  ニコニコと笑うミーコに私は、もうすぐ六年生だからと伝えた。するとミーコは「じゃあ、もう大人だから教えてあげる」と笑った。 「何を?」 「葉子ママの三つの逸話」 「逸話ってなんだっけ?」 「謎のおもしろ話ってこと」  逸話という言葉すら知らない十一歳は、まだ大人ではないと自覚していたが、話を聞きたかった私は、そこはあえて否定しないでおいた。
/254ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加