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その喧嘩の一週間ほど経った日曜、ミーコが新婚旅行のハワイ土産を携え、うちにやってきた。もちろん、自分が二人の喧嘩の原因となったなどとは露知らず。
お土産は、ハワイアンキルトのクッションカバーだったと記憶している。私は、その赤く大きな花柄を見ながら、ミーコとママのセンスは似ているなと思った。ママのエプロンには、真っ赤な大きな花が毒々しく描かれていたし、ミーコのワンピースには、色とりどりの毒々しい水玉が、めいっぱい散りばめられていたからだ。
ママはケーキを焼いていた。いつものピンクや紫のクリームを使ったド派手ケーキだ。ママは私に「もうすぐ終わるから、ミーコとお話ししてて」と言って、キッチンに消えた。
「あけましておめでとう、夏芽ちゃん。大人っぽくなったわねぇ」
ニコニコと笑うミーコに私は、もうすぐ六年生だからと伝えた。するとミーコは「じゃあ、もう大人だから教えてあげる」と笑った。
「何を?」
「葉子ママの三つの逸話」
「逸話ってなんだっけ?」
「謎のおもしろ話ってこと」
逸話という言葉すら知らない十一歳は、まだ大人ではないと自覚していたが、話を聞きたかった私は、そこはあえて否定しないでおいた。
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