1 家族の記録

11/13
前へ
/254ページ
次へ
 ミーコの話はこうだった。  ママの逸話その一。日本人とブラジル人のハーフ説。  その昔、ママの母、つまり私にとって祖母である清子は、ある日突然、ブラジルへと旅立ったそうだ。理由はわからない。誰にも何も言わず、仕事も辞め、ただふらりと出て行ったそうだ。音信不通のまま五年ほど経ったある日、清子は家へと帰ってきた。その腕には、生後二歳になったばかりの娘を抱いていた。  久しぶりに顔を合わせ食卓を囲い、昔話に花が咲いた。しかしその夜、娘と置き手紙を家に残し、清子は姿を消した。そこには娘の名前の他に、未婚のままブラジルで産んだこと、父の名は明かせないこと、そして娘の幸せを願っていること、などが切々と書かれていたそうだ。  つまり、その娘がママだ。  ママの父が誰なのかは、いまだにわからず、ブラジルで産んだからといって、父がブラジル人なのかも定かではない。しかしどうやらこの話は、ママが日本人離れした顔立ちで、さらにグラマラスな体型であることから、信憑性を持ってしまったようだ。しかし、嘘だという確証もない。ママの祖父母はすでに亡くなり、清子の行方もわからない今、遺伝子検査でもしない限り、事実確認は困難である。  ちなみに後日、ママ本人にブラジルにいた頃の話を訊いたが、「いたみたいだけど、残念ながらママはサンバは踊れないのよ」と言われて終わった。
/254ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加