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3 スランプ
橘君の一件があってから、眠れない日が増えた。意味もなく涙がこぼれ、止まらない夜もあった。机に向かっていることに堪えきれなくなると、夜の街に飛び出し、ひとり飲み歩いた。ナンパしてきた見知らぬ男と、一夜を過ごしてしまったことさえあった。
当然、あとに残るのは後悔しかない。そんなことで心が浄化されないことはわかっていたが、どうにもできなかった。
そしてそんな時でも、締め切りは容赦なくやってきた。ストーリーはまったく浮かんでこなくなり、頭は霧がかかったようにぼんやりとした。
そんな頭をすっきりさせようと、日中はコーヒーや栄養ドリンクを大量に飲んだ。結果、そのせいで眠れなくなり、睡眠導入剤の量も増えるという悪循環に陥った。
ママや柳本愛から何度かメールが届いていたが、見たら落ち込みそうだと開くこともしなかった。
どうして、こんなことになってしまったのだろう。私はいったい、どこで何を間違ったというのだろう。
担当は、再び須藤に戻った。その須藤は、佐倉さんの助けを借りて、ようやく仕上げたネームを読み終え、渋い表情で唸るように言った。
「仕方ない。もう時間ないし、この感じでいこう」
須藤と話の詳細を詰めていると、佐倉さんがコーヒーを入れてくれた。
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