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その事件が起きたのは、1992年の12月24日。つまり、私の十一歳の誕生日。
「なんだ、これ……」
部屋に足を踏み入れたパパは、愕然とした顔で室内を見回した。
テーブルや床には、レースや紙切れなどの謎の装飾品が散乱し、装飾のされていない大きなクリスマスツリーが青々と葉を広げた部屋の中央で、ママはパパの帰宅に気づくことなく、夢中で何かを切り貼りしていた。その横には、ソファーに寝転がってポテトチップスを頬張りながら、漫画を読む私。
その日、パパは出張で三日ぶりの帰宅だった。おかえりと喜ぶ私に、いつもなら、「ただいま夏芽」と笑顔を向けるパパが、その日は私の横を素通りし、ラジカセのストップボタンを押した。
部屋がとたんに静まり返る。
「クリスマスと誕生日の準備はどうした。ケーキは作ったのか」
ママは、はっとした表情を見せてから、気まずそうに舌を出して笑い、肩をすくめた。典型的な、忘れてましたポーズ。
ああ、まただ。またママのペースだ。パパはいっつもママのペースに乗せられて終わる。私がそう思った時だった。
「あれほど頼んでおいたじゃないか!」
パパが怒鳴った。
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