1 家族の記録

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 思い返しても、私がパパの怒鳴り声を聞いたのは、その日だけ。こんなパパを見たのは、生まれて初めてだった。パパの表情は、悔しさなのか怒りなのか歪んでいた。 「ごめーん、うっかりしてた。あ、でもさっきピザ頼んどいたから。みんなで食べよ、ね」  そんなパパを前に、ママは意に介さず。その顔は、どう見ても反省しているようには見えなかった。  そこでパパが、さらに一喝。 「うっかりってなんだ! 俺が、どれだけ無理を言って、仕事を抜け出してきたと思ってるんだ」  育ちが良く、穏やかで優しいパパ。さらには家族思いで仕事もできる。誰もが羨むような完璧な父親。パパは毎年、どんなに忙しくても、ママと私の誕生日には早く帰って来て祝ってくれていた。しかしその年の夏頃から、パパは毎日深夜に帰宅する日々が続いていた。  きっと仕事が大変なのだろう。子供の私ですら、そんなことはわかっていた。それなのに……。 「忙しかったんだもん」  ママはそう言った。唖然とするパパ。 「美容室は改装中で休みなんじゃなかったのか」 「店は休みなんだけど、明日ここでパーティーをやるから。その準備がいろいろとね。あ、そうだ。夏芽の誕生日会も一緒にやったらどうかな」
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