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だが、根が真面目な瑞希は、かねてから悪い噂の絶えない悠斗に、遊ばれるのはごめんだと相手にもしなかった。
もし、アプローチしてきたのが悠斗の兄の大雅なら、瑞希は多分、前向きに考えたかもしれない。
悠斗とは3歳しか違わない大雅は、大企業を背負ってしっかりと自分の目で見て、頭で考えるタイプで、両親の会社の経理部門に就いた瑞希には、同じ立場として尊敬する男性だった。
先日宇南家が行ったパーティーでは、社会人になってから一層外見やマナーを磨いた自分を大雅に見てもらおうと、瑞希は普段より念を入れて化粧を施し、上品なドレスを身にまとった。
カクテルを片手に、輸入関連の話を仲間内でしていた大雅が、時々瑞希にも意見を求めるので、瑞希は嬉しくて天にも昇る気持ちを、表情に出さないようにするのが大変だった。
少しでもできる女に見られるように、淡々と答えると、大雅は満足したようににっこりと笑って頷き、瑞希の意見を褒めたのだ。
嬉しそうに弧を描く口元を、グラスで隠すように口をつける瑞希を横から見ていた悠斗は、兄に盗られるのではないかと不安になった。正攻法で手に入らないならと裏手を使ってきたのだ。
「薬を持っていたのなら、悠斗さんも捕まるから、翔兄さんだけを警察に突き出すことはできないでしょ?」
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