トラップ

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トラップ

「翔兄さん、今なんて言いました?」  両親がいくつか営む老舗家具店の会計事務所で、一人帳簿を確認していた矢野瑞希は自分の耳を疑った。  休日は店など気にすることもなく、いつも自由にほっつき歩く2歳年上の兄が突然やってきて、とんでもない頼み事をしたのだ。 「すまない瑞希。ほんのちょっとだけあいつの遊びに付き合ってやってくれないか?そうしたら、俺は逮捕されなくて済むんだ。この通り頼む」  27歳にもなって、大学時代からの悪友との縁を切れず、その男が雇った人間に騙されて、勧められるままに違法ドラッグが入ったタバコを飲んだのを、写真に収めらてしまったらしい。  青ざめた顔で妹の瑞希に頭を下げ続ける兄を見て、瑞希はこれが冗談でなく、これから身に降りかかるであろう厄介なできごとを想像して身を震わせた。  翔の悪友の宇南悠斗は、レジャー施設を兼ね備えた大型店舗チェーンの創始者の孫で、家具を卸す矢野家にとって、大事な取引先の一つだった。  家族を交えて付き合いがあったが、瑞希が成長期に入り、どんどん美しく女性らしくなるのに惹かれた悠斗が、しつこいくらにモーションをかけるようになった。     
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